監査事務所の選択
2020年12月24日 [IPO]
新型コロナウィルス感染症の拡大により、今年の春ごろ、新規上場(IPO)を辞退する会社がありましたが、株式市場の好調さとテレワークや外出自粛の中でITビジネスの会社の業績の堅調さとともに年末にかけて新規上場会社数を増やしてきています。このような状況ですがIPOを目指す会社は、増加傾向にあります。一方で、上場会社の会計不正事例は後を絶たず、IPOの会社でも不正が発覚している会社が存在しています。その結果、監査法人の品質管理に求められる時間が大幅に増加するとともに、KAMなど新たに監査手続も増加していること、並びに働き方改革から、監査時間が切迫しており大手監査法人を中心に新規上場会社の監査受嘱を断られることが多くなっています。このようなIPO準備会社と監査法人の需給のミスマッチを解消すべく金融庁は、「新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」を設置し、2019年12月からIPOに係る監査事務所の選任等に関する課題認識と対応策について関係者間で検討を行ってきました。また、日本公認会計士協会は、金融庁の上記連絡協議会を受け、「新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」(2012年)を改訂しました。その中で、「ビジネスモデルと会社規模を踏まえた監査法人との監査契約」で、海外展開や子会社が多数ある会社など監査工数を要する会社、また事業内容が複雑な会社など大手監査法人や準大手監査法人に依頼すべき会社と中小規模の監査法人で対応可能な会社を分けて監査契約を締結すべきことを示唆しています。最近の傾向では、2019年IPO社数のうち大手監査法人が78%、準大手監査法人が16%となっていますが、中小の監査法人は5%程度となっています。まだまだ、大手・準大手監査法人の比率は高い状況となっています。これからは、会社のステージに合わせた監査法人の選択が普通になってくるのかもしれません。IPOは、会社の規模や複雑性から中小監査法人を選択し、会社の規模の拡大や新規ビジネスの展開など複雑性が増した段階で、準大手監査法人または大手監査法人に監査人の変更をしていくことが望まれることになっていくように思います。なお、前述の連絡協議会で日本公認会計士協会は、中小監査法人がIPOを目指す企業の監査の新たな担い手となるための取り組みを宣言するとともに、IPO支援に向けての独立開業の公認会計士の積極的関与のためのネットワークの構築を宣言しています。